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レビュー: 立岩、杉田『相模原障害者殺傷事件 ―優生思想とヘイトクライム―』(青土社)

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立岩真也と杉田俊介の著書『相模原障害者殺傷事件 ―優生思想とヘイトクライム―』(青土社)を読了しました。アマゾンのレビューの評価は妥当でないと思え、私なりの簡単なレビューを投稿したので、こちらにも掲載します(アマゾンでは星は四つにしました)。


2017年7月26日に津久井やまゆり園で発生した事件に材を取った本。しかし事件そのものではなく、事件について語る上で踏まえておくべきものごとについて記されている。主な担当は立岩真也が歴史と原理(I)、杉田俊介が同時代性(II)。最後に二人が対話を交わしている(III)。
 二人は論考でも対話でも対照的で、その距離の隔たりが決して大部ではないこの本にふくらみを与えている。一般的に自明とされている前提も決してそんなことはないのだと立岩は指摘し、容疑者の考えに同調する人々や近い世代の人々の起こした犯罪、ヘイトスピーチのはびこる世相との関連について杉田は思いをめぐらす。
 立岩は言う。「この世は救われねばならないほど大変ではないし、わざわざ人を殺す必要はさらさらない」(p.190)
 杉田は言う。「優生的・ヘイト的な差別は、社会的弱者や他者を抹殺していくのみならず、僕ら自身をも緩慢に滅ぼしていく」(p.176)
 事件は犠牲者の数において突出しているが、しかし特異で孤立しているわけではない(この点の解説は本書の意義のひとつ)。故に同じ過ちをくりかえさないためには過去と現在をつないで考え続ける必要がある。本書はそうした営為を積み重ねようとする人々に手がかりとして差しだされた、真摯な思考のひとつの記録である。

ひとつ残念な点をあげると、立岩担当分はWeb上の資料の紹介が多く、また文章も立岩自身が長く考え続けてきたことを端的にまとめた側面がおおきい。そのため本書だけではわかりにくい、あるいはつかみにくいという面は否めない。急いで出版するためとはいえ、この点はもうすこしなんとかならなかったものかと思う。関心を持たれた向きには氏の他の著作もあわせておすすめする。

(文中敬称略)

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