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本をつなぐ: 『小さなチーム、大きな仕事──働き方の新スタンダード』と『資本主義リアリズム』をコールセンターでつなぐ

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小さなチーム、大きな仕事──働き方の新スタンダード』(フリード、ハンソン, 2010)によると、ザッポス・ドットコム(靴を中心としたアパレル関連の通販小売店だそうな)のスニーカーはカスタマーサービスへの情熱により他とは違ったものになっているそうです。

ザッポスでは、カスタマーサービスの従業員は対応マニュアルを使用せず、顧客と長時間話すことが許されている。(略)新入社員は(あとでどこに配属されるにしろ)まずカスタマーサービスでの電話の応対と倉庫での作業に四週間を費やす。 (フリード、ハンソン『小さなチーム、大きな仕事──働き方の新スタンダード』「競合相手」-「商品をありふれたものにしない」)
一方で同書にはこんなことも書かれています。
顧客サービスで最も大事なのは、すぐに返事をすることだ。すばやく反応することで悪い状況を良い状況に転じることができる。 (フリード、ハンソン『小さなチーム、大きな仕事──働き方の新スタンダード』「ダメージ・コントロール」-「対応の速度はすべてを変える」)
「顧客と長時間話すこと」と「すぐに返事をすること」は両立するでしょうか……? むろん個別のケースでは両立することもありうるでしょう。しかし全体としては、カスタマーサービスとは結局のところこの両者をカスタマーの望まないかたちで解決する仕組みに成り下がってはいないでしょうか。

マーク・フィッシャーは『資本主義リアリズム』(2009)でコールセンターへの電話体験を「正気を失うようなカフカ的迷宮」と呼んでいます。

訓練も知識も不足している何人ものテレオペレーターに同じつまらない情報を何度も伝えることの繰り返し、しかるべき対象が存在しないがゆえに無力なまま募るばかりの怒り。電話をかけてみれば直ぐ気づくように、答えを知っているものは誰もいないし、もし知っていたとしても何かをやってくれる者は誰もいないのだ。(フィッシャー『資本主義リアリズム』p.158-159)

誇張でしょうか。ザッポスのような企業が主流になれば解決するでしょうか。いや、この迷宮が取り壊されることはないでしょう。迷宮を作り支え増殖させるのはスタートアップをはじめとする企業が依拠し強化するビジネスという構造そのものだからです。

翻弄されるばかりでは人は生きていけはしません。耐える、やり過ごす、時にはささやかに反撃を試みる、「カフカ的迷宮」はそういった営みの積み重ねと共にあります。スタートアップのビジネスにはそのような営みを必要とする基盤そのものを掘り崩すような動きこそを望みたいものです――叶うことのありえない幻想であると理解した上で、なお。

(文中敬称略)

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